法人で起業するデメリットを解説
前回のお話
起業する時は、個人事業主と法人という2種類の形態がある事を前述しました。前回は、法人で起業するとどのようなメリットがあるか、個人事業主と比較して解説しました。
今回のお話
法人にはメリットがありますが、そのかわりに個人事業主と比較して手続きが複雑である事や維持コストが大きいというデメリットもあります。今回は法人のデメリットについて解説していきます。
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法人のデメリットを個人事業主と比較して解説
【目次】
1.設立費用と手間
2.事務負担と運営コスト
3.社会保険の強制加入
4.赤字の時も税金が掛かる
5.消費税を節税できるのは個人事業
6.会社設立のデメリットを整理すると
設立費用と手間
個人事業主 | 法人 | |
起業手続きの違い | 〇
税務署への届出のみ |
✕
法務局での設立手続き 税務署への届出 |
手続き期間の違い |
〇
1日で完了 |
×
2~3週間程度 |
起業コストの違い | 〇
開業コストは無し |
×
9万円~25万円程度 |
個人事業で起業する場合、税務署に個人事業を開業する旨の書類を提出するだけで手続きは終了します。届出を提出するだけですので、特別な費用は必要ありません。
これに対して会社設立の場合は違います。会社設立して起業する場合は、法務局で会社設立登記を行う必要があります。
会社設立手続きの費用に関しては、会社の種類にもよりますが法務局での登録免許税や代行手数料を含めて9万円~25万円程度必要となります。
また、手続き期間についても個人事業の場合は1日で起業手続きが完了するのに対し、会社設立の場合は2~3週間程度の期間が必要となります。
事務負担と運営コスト
個人事業主 | 法人 | |
事務負担 | 〇
従業員がいなければ確定申告だけ 確定申告も簡単 |
×
社長一人でも事務作業は複雑 決算申告は難しい |
運営コスト | 〇
税理士に依頼しなければ0円 無料のサポートも多い |
×
税理士がほぼ必須 相場は年30万円程度 |
撤退コスト | 〇
なし |
×
廃業手続きに30万円程度必要 |
法人設立した場合は、個人事業主の場合と比較して事務負担が大きくなります。法人の経理処理や税務申告は専門的な作業ですし、それ以外にも複雑な事務を行わなければなりません。
法人設立した多くの方は税理士に事務作業を外部委託する事になります。税理士費用は売上規模や取引数により異なりますが年間30万円程度と言われています。
一方、個人事業主の場合の事務負担ですが、従業員を雇用しなければご自分の確定申告をしてしまえば他の面倒な事務はありません。
確定申告作業は税務署の無料相談会や青色申告会といったサポートしてくれる体制もある事から、そういった運営面のコストもほぼ0円で済みます。
また、事業を撤退(廃業)する時は、個人事業主の場合は特段コストはかかりませんが、法人の場合は法務局や税務署で手続きをする必要があり、30万円程度のコストが必要になります。
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法人設立した後はどうしても税理士が必要になりますが、問題はその選び方です。起業した後の税理士の選び方やその注意点について以下の記事でまとめております。
社会保険が強制加入
個人事業 | 法人 | |
社会保険の強制加入 | 〇
従業員5名未満の場合は無し |
×
給料を受け取る役員・正社員がいたら加入 |
月額保険料
30代 役員報酬30万円の場合 |
〇
国民健康保険と国民年金 月額34,354円(個人負担額) |
×
健康保険と厚生年金 月額41,682円(個人負担額) 月額41,682円(法人負担額) 合計83,364円 |
会社の場合、従業員の人数に関係無く、会社から役員報酬やお給料を受け取っている人がいれば、健康保険と厚生年金(以下社会保険)の加入義務があります。
一方、個人事業の場合は、従業員が5名以上になるまで社会保険の加入義務はありません。
何が問題かというと、社会保険料はとにかく高いという事です。起業したらまずは生きていけるだけのキャッシュフローを作る必要がありますが、その為固定費はできるだけ抑える必要があります。
社会保険は「労使折半」といって、お給料を受け取っている方と会社がそれぞれ半分ずつ負担する仕組みになっています。お給料から引かれる金額と同額を会社が負担するというイメージです。
社会保険料の会社負担分は給与額の15%程度と言われています。従業員を雇用する際には注意が必要です、お給料から差し引けると言っても、結局人件費+15%会社が負担しなければいけません。
社長の保険料に関しては、役員報酬から差し引かれて、自分がやりくりしている会社のお金からも負担して。負担感としては実質社長が全額負担しているのと替わりません。
起業のリアル感としては、創業から3年の会社の殆どが社会保険に未加入というのが実態です。
毎月「自分の役員報酬をしっかり取れるまで売上を安定させる事すら大変なのに、社会保険料なんて払えない。」というのが起業のリアルなのです。
社会保険に未加入の事業者には、3ヶ月に1回程度年金事務所から督促の手紙が来るのですが、みなさんまだ売上が安定しないから待ってくれと相談したりしてやりくりしています。
年金事務所としても、会社に資金力が無い間は相談に応じて目をつぶってるという現状がありますが、そもそも法律で加入が義務ですし、最悪過去2年分遡って強制徴収というルールもあります。
1ヶ月でこんなに高いのに、2年分も遡って請求されたらそこで事業終了です。。。結局、会社設立したら、社会保険料を支払える資金力をつけなければいけないという事です。
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起業した会社の殆どが社会保険に未加入という実態について、未加入業者の社長とインタビューした記事がございますのでよろしければご参考にして下さい。
赤字の時も税金が掛かる
個人事業 | 会社設立 | |
事業の決算が赤字の場合 | 〇
他に収入がなければ無税 |
×
赤字でも毎年7万円の法人税 |
役員報酬が確保出来ない場合 | 〇
他に収入がなければ無税 |
×
役員報酬が取れなくても税金が発生 |
事業を行っていると、上手くいかず赤字になってしまう時があります。法人設立した場合は、赤字になっても税金を支払う必要があります。この点も個人事業と大きく違います。
法人は一年の決算を行った結果、赤字であったとしても毎年7万円程度の税金が会社に発生します。一方、個人事業ので赤字になった場合、他に収入がない限り税金が発生する事はありません。
また、法人の役員報酬は「定期同額給与」というルールがあり、従業員の給料と違って簡単には金額の増減ができなくなっています。
これは、利益の出た時だけ増額し、赤字の時は減額というように役員報酬を調整する事を認めてしまうと、税金を払いたくないための利益操作が可能になってしまうからです。
売上が少ない月は自分の役員報酬が支給できない。創業期はこういった事がよくありますが、定期同額給与というルールがあるので、役員報酬を受け取った事にして処理する必要があります。
細かい処理の話は省きますが、役員報酬を月30万円とした場合「今月は役員報酬を10万しかとれなかった」という時にも、税金と社会保険料は30万円分請求が来るというイメージです。
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役員報酬は払えない時でも所得税と社会保険料を支払う必要がある件
消費税を節税できるのは個人事業
業種 | 年商1,000万円での消費税額目安 |
卸売業 | 8万円 |
小売業 | 16万円 |
製造業 | 24万円 |
加工業 | 32万円 |
サービス業 | 40万円 |
不動産業 | 48万円 |
会社の売上が大きくなると「消費税」という税金が関係してきます。前述した会社の節税対策は事業に対する利益に対して課税される税金に対するものであり、消費税は別のものになります。
商品・サービスを購入した場合、代金に消費税分を加算して支払っていると思います。会社・個人事業主はお客様から受け取った消費税を、原則決算時に国に納税する必要があるのです。
詳しく説明すると、会社・個人事業主は消費税がかかる売上(課税売上)で受け取った消費税から、自分たちが取引先などに支払った消費税を差し引いた額を決算時に税務署に納税します。
売上の少ない会社は一定のルールにより消費税の納税義務が免除されています。一定のルールとは、年商1,000万円を超えた2年後の事業年度より消費税を納税する事になります。
起業して2年間は消費税を支払わなくていいと言われるのはこういった理由です。
年商1,000万円程度のサービス業の例で図を作成しました。この場合の消費税納付額は年間で約40万円程度となります。40万円の税金を2年間得している事がご理解頂けると思います。
この税金で得する事を益税と言ったりします。
個人と法人は別人格として扱われます。個人事業で年商1,000万円を超えて、2年後からは消費税を納める義務があるとなっても、そこで法人設立すれば消費税のカウントは1からやり直しになるのです。
年商1,000万を超えてから
会社設立で起業すると2年
個人事業から会社設立で4年
消費税を支払わなくていい期間が違ってきます。
この違いは大きいです。
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法人のデメリットを整理すると
法人設立のデメリットについて、個人事業主と比較しながら解説をしました。
維持コスト
赤字の際の税金
役員報酬が取れない時の税金
⇒法人は個人事業主と比べて圧倒的に維持コストがかかる。
社会保険料加入問題
⇒個人事業主と比較して事業安定までの道のりが長くなる。
消費税を最大限節税できるのは個人事業主
⇒最初から法人で起業すると消費税免税期間が短くなる。
事業を行うにあたっては、手元にある資金をいかに事業に回すかという事が重要になってきます。だからこそ、固定的に必要な費用はできるだけ抑えなければいけません。
会社設立した方が節税効果が高いといった話をよく見ますが、会社は圧倒的に維持コストが高いです。事業を安定させるまで、固定費を抑えるというのは本当に大事な事です。
そういった意味で、費用対効果を考えて個人事業か会社設立を選択する事も重要なのです。
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